石斑魚

建州に石斑魚という魚がいて、好んで蛇と交わる。 南方の土地では、蜂の巣を除去するのに石斑魚を用いる。蜂が巣をかけた木のそばで石斑魚を焼き、竿の先に付けて魚の影が巣の上にかかるようにすると、たちまちツバメほどの大きさの鳥が数百羽も集まって巣を…

二世澤村四郎五郎メモ

鶴屋南北『戻橋背御摂(もどりばしせなにごひいき)』の冒頭、瀧夜叉役で出た澤村四郎五郎の台詞。 いささか望みあるゆえに、向かい町からはるばると忍び今度の顔見世に出世のツルとものした剣、うぬらに渡していいものか。邪魔だてせずとすみやかに、道おッ…

頼光四天王は境界の守護神

源頼光に従った「四天王」、渡辺綱(わたなべのつな)、卜部季武(うらべのすえたけ)、坂田公時(さかたのきんとき)、碓井貞光(うすいのさだみつ)は、土地の境界あるいは現世と異界の境界の守護神的な人物という説。以下、齋藤慎一『中世を道から読む』…

我がせこが来べき宵なり、ささがにの…

歌舞伎や人形浄瑠璃の「我がせこが来べき宵なり、ささがにの──」は、蜘蛛の妖怪の出現を告げるフレーズ。オリジナルは『日本書紀』允恭紀にある衣通郎姫(そとおりのいらつめ)の歌。 我が夫子(せこ)が 来べき夕(よい)なり ささがねの 蜘蛛の行ひ 是夕(…

謡曲「土蜘蛛」における胡蝶の不自然、およびその解決

病で伏せている源頼光のために、侍女の胡蝶が典薬頭からもらった薬を館に持ち帰る。 その夜、僧形の者が頼光の枕もとにあらわれて、見舞いを述べる。 頼光が怪しむと、僧は、 「そなたの病気は蜘蛛のせいではないか」 と言って蜘蛛の糸を投げつけ、頼光を絞…

善知鳥

「善知」は海鳥の名前。「うとう」と読む。 「善知鳥」とも書き、「うとう」または「うとうどり」と読む。 鵜とは無関係で、発音は「ウト・ウ」ではなく「ウトー」。 鳴き声は「うとうやすかた」。 親鳥が子をさがして「うとう」と鳴くと、子は「やすかた」…

「伊賀寿太郎」の読み

伊賀寿太郎の姓名の区切りは、伊賀|寿太郎か、伊賀寿|太郎か。 歴史物語の『前太平記』では「伊賀寿」と略称してるから、これが姓の可能性がある。 鶴屋南北の『四天王櫓礎』では、ト書きに「寿太郎」とも「伊賀寿」ともあって決めかねる。登場人物の台詞で…

『今昔物語』の良門

平将門の遺児とされ江戸の芝居や小説で活躍する平良門(よしかど)はいつごろから知られた人物か。 今は昔、陸奥の国の国府に小松寺という寺あり。中ごろ一人の沙弥ありてその寺に住す。名をば蔵念という。これは平の将門が孫、良門が子なり。 ──『今昔物語…

謡曲「大江山」の一人武者

一人武者(独り武者)とは他にぬきんでた強い武者を意味し、人物の形容または代名詞的に使われる言葉なのだが、謡曲の「大江山」に出てくる一人武者には名前がない。 頼光「その主々は、頼光、保昌 供「貞光、季武、綱、金時 一人武者「また名を得たる一人武…

じつに「じつは」な『戻橋背御摂』

都の守護をになう源頼光の館に上使がやってくる。 頼光は病気で臥せっているため、かわりに奥方の園生の前が応対する。 上使は三田源太広綱と名乗り、頼光が所持する名剣、蜘蛛切りと鬼切りの二刀を差し出せと求める。刀は何者かに盗まれて館にはないのだが…

『四天王楓江戸粧』一条戻橋の場

袴垂の安(はかまだれのやす)を名乗る男娼が、 アゝ、寒い晩だワ。アゝ、人間は心がらだ。誰あろう平井の保昌が弟平井の保輔ともあろう侍が、どういうことか刃物を見ると、そぞろ髪の立つほど恐ろしくて、いまいましい病。(…)兄保昌が、役に立たずと見限…

相合傘小史

「パリの相合傘は19世紀前半からか」と前のエントリーで書いた。では、日本はいつごろからか。 だんとつに早い例は次のもの。ただし、これが相合傘のことならばだが。 君と我、南東の相傘で、逢はで浮き名の立つ身よの - 小野恭靖「『隆達節歌謡』全歌集」 …

パリの相合傘、はじまりは19世紀前半か

1910年にパリで発表された『広い襟ぐりとあげ裾』の一節。(『パサージュ論』第1巻から孫引き) 今やもう扇子ではなく、傘である、まったく国民衛兵的国王の時代にふさわしい発明だ。恋の戯れに好都合な傘! 目につかない物陰がわりの傘。 男女が人目に隠れ…

いそがしや沖の時雨の真帆片帆

これも『猿蓑』巻之一から。 真帆(まほ)は順風を受けて走るときの帆の張り方、片帆(かたほ)は横から風を受けて進むときの傾けた張り方。 ふいの時雨(しぐれ)に見舞われた舟があわてている。上五の「いそがしや」は孤舟よりも舟群を思わせ、そう解釈し…

女と同じ、ばかな奴らだ。

秀吉死す──。伏見城から流れだした知らせに接して、豊臣秀吉晩年の悪政に苦しんでいた民のあいだに歓声が広がっていく。太閤の死を見とどけた徳川家康は、ひとり城頭にのぼってその声を聞く。 家康は、よろこびにどよめく暗い下界を見わたして、苦っぽく笑っ…

歴史を個人のドラマに置き換えること

明智光秀の母さつきは、主君織田信長を討った息子の非道を恥じて館を捨て、尼ケ崎の庵室にこもっている。 そこに旅の僧をよそおった羽柴秀吉がたずねてきて、一夜の宿を乞う。 その秀吉を光秀が追ってくる。秀吉が風呂に入ったのを察して光秀が風呂場に槍を…

『浮世柄比翼稲妻』名古屋浪宅の場

名古屋山三は浅草鳥越の裏借家に住んでいる。 そこに借金取りが押しかけている。 呉服屋、小間物屋、縫箔屋が来ている。山三が吉原のおいらん葛城太夫に着物や装飾品を贈ったから、それぞれ二、三十両の借りがある。 米屋、酒屋もきている。 家主も溜まった…

男同士の相合傘

- Actors Sawamura Tosshô II as Hosokawa Katsumoto ® and Ichikawa Sadanji I as Marigase Shûya (L) | Museum of Fine Arts, Boston 浮世絵のことはおいて、まず第2次大戦後まもない時期のディック・ミネのヒット曲から。 花のホールで 踊っちゃいても 春…

大商蛭小島

正木幸左衛門という人物が伊豆の下田で手習いの師匠をしている。 その女房おふじはとても嫉妬深いという。 (奥さんが嫉妬深いのか、たいへんだな、正木という人も) 幸左衛門の留守に、おますという娘が訪ねてきて、弟子になりたいと申し入れるが、女房おふ…

哀れで笑える相合傘

艶二郎という商家のドラ息子、男前とはほど遠い人物なのだが、浮き名を立てたいとカネにあかせてあれこれ企てる。 まずは、はやり歌のレパートリーを広げておこうと、これが数十曲。女たちからの艶書もほしいと、偽造して部屋の状差しにはさんでおく。さらに…

芭蕉が読み違えた其角の秀句

これも『猿蓑』の句。明治の俳人・内藤鳴雪が「其角集中第一等の傑作」と評したという。 この木戸や鎖のさゝれて冬の月 其角 「鎖」は「錠」と同じ。したがって中七の読みは、ジョウノササレテ。 其角はこの句の下五を「冬の月」とするか「霜の月」かで決め…

昼のミミズクのとぼけ顔

これも『猿蓑』の句。 木菟やおもひ切たる昼の面 芥境 ミミズクヤオモイキッタルヒルノツラ。 「おもひ切たる」は、悟りすました様ともいえるし、そんな境地は通りこしてただボケてるだけともいえるが、どちらかといえば後者に近く感じる。夜は猛禽のミミズ…

あれ聞けと時雨来る夜の鐘の声

「あれ聞け」と誰が言ってるのかという宿題。 あれこれ考えたが結論だけ。 この句は語調のうえで次の箇所に切断がある。 あれ聞けと|時雨来る夜の鐘の声 けれどもこう切ったのでは、「あれ聞け」の発話者があいかわらず判然としない。そこで、次の箇所に意…

「ペケ」の語源

昨日の記事で利用した考証的随筆の『貞操帯秘聞』だけど、ほかの項目もざっとながめてみた。P.170に「ペケ」という言葉はフランス語の Piquer がなまったものだとあった。 この語は横浜のフランス商館から出たという。商館で輸出品を検査するさい、不合格品…

相合傘における男女の位置関係

国会図書館のデジタルアーカイブで公開されている下記の本に、相合傘のいたずら書きに関する考証的一節がある。P.69〜。 - 国立国会図書館デジタルコレクション - 貞操帯秘聞 : 民俗随筆 これによると、早期のいたずら書きでは、傘の柄の両側に(文字ではな…

相合傘の逐語訳

相合傘を外国語でなんというか。Google 翻訳で訳してもらったら、 英 - An umbrella 仏 - Partager un parapluie 独 - Teilen Sie einen Regenschirm 中 - 分享一把伞 英訳は訳せてないから、フランス語経由で訳すと、 英 - Share an umbrella まあ、こうな…

あれ聞けと…

あれ聞けと時雨来る夜の鐘の聲 『猿蓑』にある其角の句だけど、意味がわからない。 「あれ」は代名詞なのか、感嘆詞なのか。「聞け」と誰が(あるいは何者が)言ってるのか。聞くべき対象は鐘の音なのか。時雨にだって音はある。だから時雨のことではないの…