相合傘における男女の位置関係

国会図書館のデジタルアーカイブで公開されている下記の本に、相合傘のいたずら書きに関する考証的一節がある。P.69〜。
- 国立国会図書館デジタルコレクション - 貞操帯秘聞 : 民俗随筆

これによると、早期のいたずら書きでは、傘の柄の両側に(文字ではなく)似顔絵を描いていたとのことで、
   らくがきはあいあいがさの首ばかり
という句を例証にあげている。

もうひとつおもしろいのは、落書きでも浮世絵でも女性を右、男性を左に配置するものが圧倒的に多く、これは男尊女卑の現れではないかという指摘。その例として歌川国芳「荷宝蔵壁のむだ書」にある落書きに言及しているのだが…。
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男尊女卑の現れとする説には疑問がある。
右・女性、左・男性という配置は、当事者の二人の関係でいえば男性が女性の右側にいることになり、著者は右をもって尊いとして男性優位の現れとしているのだが、右(見る側からは左)を優位とするのは、近代的な考え方ではないか。
というのも、江戸人に広く親しまれた歌舞伎の舞台では客席から見て右側(上手)が上座であるし、雛人形の飾り方でも左大臣が向かって右側に置かれる。また、右から左に進む日本語縦書きの原則に従えば、相合傘の落書きでは女性名が男性名よりも先に書かれることになる。いずれの場合も向かって右が左より上位にあるわけで、落書きや浮世絵における相合傘の人物配置は、逆に女性が尊重されていた例にもなるのではないか。

元記事:
- 相合傘メモ - Magazine Oi!
- 相合傘メモ(続き) - Magazine Oi!