大商蛭小島

正木幸左衛門という人物が伊豆の下田で手習いの師匠をしている。
その女房おふじはとても嫉妬深いという。
(奥さんが嫉妬深いのか、たいへんだな、正木という人も)
幸左衛門の留守に、おますという娘が訪ねてきて、弟子になりたいと申し入れるが、女房おふじは、
「こんな美しい娘を弟子に取るわけにはいかない」
と追い返してしまう。
(いや、たいへんなものだ)
やがて幸左衛門が帰ってきて、弟子たちに習字の指導をはじめる。
弟子たちはどれも年頃の娘ばかり。
幸左衛門は一人ひとりに手を添えて教え、さらには旅行に誘ったり、抱きついたり、いつまでも生娘でいるものではないと口説いたりする。
(いやいや、話が違うではないか。これでは女房がヤキモチを焼くのも無理はない)
様子をうかがっているおふじは、ますます嫉妬をつのらせる。

正木幸左衛門、じつは伊豆に流謫中の源頼朝
女房おふじ、じつは伊藤祐親のむすめ辰姫。
弟子入りを志願してきたおますは、北条時政のむすめ政子。

その後いろいろあって辰姫は頼朝をあきらめ、政子と結ばれた頼朝は平家打倒の兵を挙げる。めでたし、めでたし。

以上が桜田治助「大商蛭小島(おおあきないひるがこじま)」のごくごく大雑把なあらすじ。歌舞伎座で上演中。松緑演じる幸左衛門=頼朝が娘たちにしなだれかかるくだりは、いやらしいけれども、しつこすぎず、気楽で脳天気な人物を見せている。