あれ聞けと時雨来る夜の鐘の声

「あれ聞け」と誰が言ってるのかという宿題
あれこれ考えたが結論だけ。

この句は語調のうえで次の箇所に切断がある。

  あれ聞けと|時雨来る夜の鐘の声

けれどもこう切ったのでは、「あれ聞け」の発話者があいかわらず判然としない。そこで、次の箇所に意味的な切断があるとしてみる。

  あれ聞けと時雨来る|夜の鐘の声

これなら、発話者は時雨になる。「あれを聞け」と時雨が言っているのである。
この場合、「時雨来る」は動詞句だが、いっぽうで「夜」以下を修飾する形容句でもあり、いわば「時雨来る」が掛詞に似た働きをして前後のフレーズをつないでいる。

このように考えれば一句の意味は、冬の夜更け、時雨が軒を鳴らして過ぎて行き、それを追って鐘の音がわたってくる、というほどのものになる。
無難な解だが、こう解釈する長所は、「あれ聞け」の発話者としてその場の主人とか客とか句会の出席者といった者を想定しなくてすむこと。この一句には詞書もなく、どのような場で詠まれたかという情報もない。ならば、解釈は句に盛り込まれた情報だけで済ますほうがいい。